みちとギター

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『 ターシャ・テューダー 静かな水の物語 』  感想

4月15日公開の『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』を観てきました。

 

  ”アメリカを代表する絵本作家、ターシャ・テューダー  

   <スローライフの母>からあなたへ贈る、永遠の生きるヒント。”

 

と公式サイトにあります。美しいのどかな光景が流れる癒し系作品と思いきや、鑑賞後に残るのはターシャの強靭な精神への、畏怖に近い敬意です。

 

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 ターシャ・テューダーバーモント州の山奥で、植物と動物に囲まれたスローライフを貫いたことを知る人は多いでしょう。子どものころ絵本で見た魔法使いのおばあさんのような風貌で、痩せた身体に古びたワンピース、白髪頭にはスカーフを巻き、愛犬であるコーギー犬を傍らに、庭仕事や編み物に勤しむ姿を見たことのある人もいるはずです。

 

 たしかに映画の中の光景は、のどかで美しいターシャの暮らしが大半を占めています。しかしそれらをバックに語られる彼女の人生は、決して平穏なものではありませんでした。

 

 はっきり言って、ターシャの母と夫は、ろくでなし! でした。ナレーションで紹介されるエピソードを観て「あんたら勝手だな!」と心の中で叫びました。しかし驚くべきは、それがターシャの人生にほぼ影響していないということです。ターシャが彼らを語るのはほんの短い部分。母が育児をせず乳母に育てられたことについては「お母さんを二人持てたことは幸せね」と自然に語っていました。繕っているのでも、無理やり目をそらしているのでもなく、むしろ彼らとの思い出を愛していることが伝わってきました。

 人によっては、被害者意識にからめ取られたまま過ぎてしまう半生だと思いました。でもターシャはまったくそうなりませんでした。きっと、彼女の最も重要な関心事が、いつでも「自分はどう生きたいか」ということだから。他人や生まれは自分の思い通りにならない。ターシャは、自分の力でどうにもならないことに固執しなかった。その代り、自分の力で変えられるものに、全精力を注いだ。

 

 諦めないことよ。古いソファに埋もれるように座り、91歳のターシャは言っていました。彼女が描いた絵本から漂う平和で牧歌的な雰囲気とは対極の、頑強な精神を内に秘めていた人なのだと知りました。

 

 あの美しい庭の土には、並々ならぬ覚悟と決意が埋まっている。自分にとっての楽園を作り出すには、困難に揺るがない信念が必要なのだと、ターシャが育てたバラが、シャクヤクが、リンゴの木が、風に揺れながら語っていました。