降り積もる本
世の中には本の虫と呼ばれる人がたくさんいるので、「趣味は読書です」と胸を張って言えないできた。
「ではどれくらい本を読みますか?」ともし聞かれて自分の読書量(年に100冊くらい)を正直に答えたら、なんだそれだけか、と思われるのではないかという不安があった。
しかも、最近は悲しい話に対する免疫力がなくなってきたので、うっかり悲劇に当たらないよう、小説を避けている。
もっぱらノンフィクションばかり。
「どんな本を読むのですか?」
「最近はノンフィクションを……」
(なんだ、小説は読まないのか)
と、また被害妄想に似た架空のやり取りが頭の中で始まる。
大事なのはジャンルや冊数ではない、読むことへの熱量だとわかっていても、なんだか本の話を人とできないでここまできた。
でも。冊数は相変わらず変わっていないけど、最近は良書との出会いに恵まれ、
次々と本を読むのが楽しくて仕方ない。メガホンで叫びたいほど、「趣味は読書です」。
岡田節人先生や日高敏隆先生の生物学のお話しは、世界の不思議で満ちているし、
ターシャ・テューダーや西村玲子さん、角野栄子さんの自立した生活には身もだえるほど憧れる。ほしよりこさん、坂崎千春さんのエッセイを読むと刺激を受けながら、かつ温かい気持ちになれる。
一冊で人生が変わった! という出会いはまだしたことがない。
それは宝くじに当たるようなものなのだと思う。
そういう劇的な幸運はなくとも、読んだ本たちは、知らぬ間に自分の一部になって
道に迷ったときに行き先を示してくれたり、人に言えない悩みにそっと寄り添ってくれたりする。
本は、降り積もるものだと感じる。
たくさんの人々の叡智が、私の心にやさしく積もっていき
ある日ふと目を上げれば、視野は少し広く高くなっていて、以前より見晴らしのいい景色が見えるようになっている。